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「共謀罪法案」と「緊急事態条項」について 専修大学教授・山田健太

現在、国会では「共謀罪」(テロ等準備罪)の審議が行われている。これは言論の自由を侵しかねない重大な問題をはらんでいる。また先日始まった「憲法審査会」では「緊急事態条項」を盛り込むことが提案された。これは言論の自由の息の根を止めかねない条項である。

言論人として見逃せない問題について、コムソフィア編集室では武市英雄上智大学名誉教授にご推薦いただき、日本で言論法の第一人者・山田健太専修大学教授に急遽執筆をお願いした。

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「表現行為にとっては大きな脅威」〜共謀罪法案〜
山田健太(専修大学教授=言論法)


■「日本の刑法原則を大きく変える」

いわゆる共謀罪が2017年通常国会の焦点の1つとなっている。これまで3度にわたって廃案になってきた法案であるだけに、安倍人気の中でかつオールマイティともいえる「東京オリンピックのため」を制定理由にできるという意味で、政府とりわけ取締り当局にとって今回は、千載一遇のチャンスだといえるだろう。
 では、なぜそれほどまでに問題なのか。理由は、共謀罪「そのもの」の問題と、共謀罪を含めた「的なるもの」の問題の2つに分けて考えることが必要だ。前者は、刑事法あるいは憲法や国際人権法の立場からすでに多くの指摘がなされているが、日本の刑法原則を大きく変えるということにある。いままでは「既遂」すなわち罪を実行することで罰していたわけであるが、これからは多くの犯罪行為においては(政府は当初の予定より半減したとしているが、それでも300近くある)、「合意(共謀)」しただけで罪とするということになる。

■「共謀を立証するために警察の広範な盗聴が予定されている」

 これは、これまでの「未遂」とか「予備」を一気に飛ばし、まさに<心の中>に手を突っ込み、怪しそうな人を捕まえるということにほかならない。しかもすでに日本では、ハイジャック犯などとりわけ重大な犯罪行為においては、予備罪とともに共謀罪も存在する。にもかかわらず、あえて一般犯罪まで対象を増やすのは後述する別の意図があると疑わざるを得ない。政府はこの対象の拡大は、条約批准のためと主張しているが、すでに国会承認は終わっているうえ、現行の国内法において条件を満たしていると考えられている。

 そして後者の共謀罪を含めた治安立法全体の問題としては、共謀を立証するために警察は広範な盗聴を予定しているとされる。すでに国会審議の中でも、盗聴法を再改正し日常的な監視活動を強化する必要性に言及している。これはまさに<監視社会>そのものである。一般人は関係ないと再三予防線を張っている政府であるが、少なくともこうした捜査段階においては、だれがテロリストかあるいはテロ集団構成員かがはっきりしない中で、より広範にまさに私たち一般市民が監視対象になることは十分ありうるし、むしろそれが目的とすら思えるのである。

 そしてこの関係で危惧されるのが、とりあえず拘束する、という事態が生じることである。実際に共謀罪で立件するかどうかは別として、怪しいから盗聴します、家宅捜査します、パソコンを押収します、ということが起こりかねないということだ。実際に警察はこれまでも、いわゆる見せしめ捜査・逮捕をさまざまな形で行ったきた歴史がある。盗聴により証拠を集め共謀罪容疑で逮捕というのが、外形的に見えづらい犯罪行為だけに、より恣意的に取締り当局の意思で行われる可能性が格段に広がることにならないか。しかもこれは、とりわけ表現行為にとっては大きな脅威となる。以上

「言論の自由の息の根を止めるものに・・・」〜緊急事態条項〜
山田健太(専修大学教授=言論法)


■「先の大戦の苦い経験から出来た法制を否定する条項」

 典型的な国の有事法制の1つが「緊急事態」対処法制だ。すでに日本にも、小泉政権時代に有事法制が整備され、その中で緊急事態宣言が出されると通常の手続きを飛ばして、部分的に私権が制限されることが決まっている。こうした制度は、戦争に限らず、原発事故や大規模自然災害時のための法規定にも存在する。そこでは、たとえばあらかじめ政府や自治体から指定された企業(指定公共機関)は、自社の車や社員を国に提供することが求められている。

 しかし当然ながら、一方で憲法は私有財産を保障していることから、かつての戦争の時のように、一方的に財産を没収したり、究極の奉仕ともいえる徴兵制によって命を国に差し出すようなことを認めていない。また、憲法を超えるような特別法を作ることも、一般の法律を国会以外で制定することも禁じている。これは、先の大戦による苦い経験から、国益を絶対的に優先することで、結果として個々人の自由や権利をないがしろにするような制度を排してきたということになる。

■「今、政府の権限強化を進めることの必然性が不明」

 にもかかわらずいま、北朝鮮や中国の脅威を理由として、いざという場合には緊急的に政府が法律を制定したり、首相に権限を集中させることで、指揮命令を効果的に実施できるようにしようとの動きが急である。そのためには憲法を改正する必要があるわけで、現在、議論が始まっている国会の憲法改正審議においても検討事項に挙がってきている。特に、憲法改正を求める人たちからは、当初大きな「目標」とされてきた9条より、国民の理解が得られやすいとして、環境権の創設や家族制度の強化などと並んで、改正項目の最初に挙げられることも多い。

 まずは、戦争ありきの国家体制作り自体の是非があるが、現行でも制約が強すぎると指摘されている特別法による緊急事態対処法制を、さらに強化させ首相(政府)の権限強化を進めることの必然性が不明である。それは、憲法原則を空洞化させ、首相の恣意的な権力行使を可能にすることに繋がるだろう。それはまさに、「国家の恣意的な権力行使を禁止するための」憲法の性格を根底から否定するものだ。

 また表現活動に関して言えば、指定公共機関に指定されているほぼすべてのテレビ局は、現行でさえも機材や社員の提供を求められている。放送法の恣意的な解釈変更による行政権の拡大傾向が顕著ないま、その「要請」が憲法改正によって「義務」に変われば、それは官製の報道が始まることを意味している。一般的な政府による表現規制の手段である秘密保護法制ができ、政府の異論を認めない(批判を許さない)姿勢が強まるなかでの、さらなる行政権限の拡大は言論の自由の息の根を止めるものになりかねないだろう。以上
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