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報道カメラの裏側から見た取材現場

報道系テレビ番組ディレクター 松本こうどう(S61外比)

警察車両が役所の正面に停まった。ダンボール箱を持ち、帽子と腕章を着用した大勢の捜査員が車から降り、無言で報道陣の前を通り過ぎて庁舎の中に消えて行く。 これは捜査当局により家宅捜索が行われるときにテレビで良くみるお馴染みのシーンである。視聴者はこの物々しい場面を緊迫感のある報道として観る。もちろん、これらの報道は事実でウソはどこにもない。だが、そこにはカメラが捉えていない見えない真実が潜んでいる。それは一体何か?少し長くなるが実例でお話したい。 取材中の松本こうどうさん 去年の夏にある教育委員会の家宅捜索を取材したときの話である。この日は教員採用試験汚職に関連して遂に県警の強制捜査が入った。大勢の報道陣が待ち構える中、教育委員会の建物前に警察の白いバンが到着する。さっそうと入口に向かう十数名の捜査員たち。報道陣にも緊張が走る瞬間である。しかし、ここで番狂わせがあった。 休日のこの日、入口はカギが閉まっており、中からは誰も出てこない。事前に報道陣が集まっているくらいである。当然に教育委員会関係者も家宅捜索が行われる日時は知っているはずと思われるが誰もいない。仕方なく、真夏の炎天下の中、捜査員たちはクーラーのきいた車に戻って関係者が来るのを待つ。報道関係者もカメラを置き、建物の日陰で様子を見守る。

30分もすると、車の中の捜査員たちは帽子を取り姿勢を崩して休み始めた。その後に教育委員会のトップが現れてやっと裏口を開けたが、担当者がいないということで捜査員たちは待機のままであった。担当者不在は強制力を持った家宅捜索を開始しない理由にはならないはずだが、捜査員たちからは何の説明もない。

そのうち、車から降りてきた数名の幹部捜査員たちが裏口付近で教育委員会トップと何と笑顔で雑談を始めた。だが、一向に家宅捜索は始まらない。あきれる報道陣をよそに、家宅捜索の予定時間を2時間近く過ぎてやっと教育委員会の職員が数人現れた。
裏口から中に入るトップと職員一同。すると捜査員たちは車に戻り、帽子と白い手袋を着用して凛々しい顔つきで、再度物々しく車から降りる場面を始めた。あたかもカメラ用に演技をしているかの様な雰囲気である。報道陣たちのカメラが回り、レポーター達はたった今捜査員が到着したかの様な現場実況を始める。無言で報道陣の前を通り過ぎて入口から庁舎の中に入る厳しい表情の捜査員たちの面々。これがテレビで良くみる緊迫感ある家宅捜索シーンが始まった瞬間であった。

もちろんテレビ報道では待機中の事は放映しない。画として流れの良い場面しか見せないが、報道としてウソや捏造はどこにもない。驚かれたかも知れないが実は、こういった出来事は決してめずらしい話ではない。だが、これで本当に視聴者に事の本質は伝わったのであろうかといつも疑問に思う。

この話を例にとると、教育委員会トップと警察幹部との馴れ合いの様子から彼らが懇意の仲であることは容易に察しがつく。家宅捜索前に容疑をかけられている側と捜査側が雑談をして、果たして正当な捜査がなされるのであろうかと疑問に思う人たちも多いと思う。しかし、視聴者にはこの様子は知らされないのである。知らない以上は事の本質を知る由もない。

ここでわかって頂きたいのは、テレビの報道はあくまでも「事実の切り取り」であるという事である。カメラで切り取られた部分は「事実」ではあるが、それだけではすべての「真実」は見えてこないのである。 この教育委員会の話には続きがある。家宅捜索後に記者会見を行ったトップは「大変なことと思っている」と神妙な面持ちで答えた。しかし、家宅捜索が非公開であったことを疑問に思っていた報道陣からその事を質問されると急に不快な表情になり、語気を強めて一方的に会見を打ち切った。
これでは家宅捜索は警察と教育委員会との馴れ合いで行われた形式的なものにすぎなかったのでは?との疑念を抱かせた。だがどういうわけか、この居直りとも思えるトップの様子はNHKをはじめ民放各局のどこも放映しなかったので、ほとんどの視聴者には記者団の前で真摯な態度でいるトップの印象しか残っていないと思う。 ほとんどと言ったのは、実は私は担当する番組のニュース枠でこのトップが語気を荒げた画をしっかりと流したのである。明らかに他と違う報道になったと思う。

現場取材した者は皆、すべての場面を放映から外したくないと思う。しかし、そういった熱意とは裏腹に、テレビ報道では事実は切り取られて放送される。だから、そこにあるカメラが捉えていない真実を見極める目を我々は持たなくてはならない。
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