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三水会 2015年1月講演録:大門小百合氏(’91外比)

■日 時:2015年1月29日(木) 18:30~20:30 
■場 所:ソフィアンズ・クラブ 
■参加者数:30名
■テーマ:日本の報道と世界の報道の違いから見えるもの
■講 師:大門 小百合(だいもんさゆり)さん(91年外国語学部比較文化学科卒)
     ㈱ジャパンタイムズ執行役員 編集担当
    (http://www.japantimes.co.jp/

<プロフィール>
91年 (株) ジャパンタイムズ 入社。報道・経済担当の記者を経て、2006年報道部長、2013年には、ハードワークな記者と子育てを両立しながら同社117年の歴史で初めての女性執行役員(編集担当)就任。その間2000年ハーバード大学のジャーナリストプログラムに1年留学、2005年にはサウジアラビア王立研究所の研究員として招聘された。著書に『ハーバードで語られる世界戦略』(光文社新書)、『The Japan Times 報道デスク発グローバル社会を生きる女性のための情報力』(ジャパンタイムズ刊)がある。

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大門小百合さん

司会(黒水):「The Japan Timesは、多くの在日の外国人に読み継がれて117年の日本を代表する英字新聞です。現在大門さんは、同紙の歴史で初の女性執行役員、編集責任者として活躍されておられます。記者の激務をこなしながら、子育てと両立させ、キャリアを作ってこられています。また、世界に日本を発信していくご自身の使命や、講演前週にはダボス会議に参加された感想等を交えて、その模様などについてもお話しいただきます」

演者口上: 「The Japan Timesの大門です。今日は私がどのような仕事をしているのか、外国と日本のはざまで働いていてその中で気づいたことや、あわせて最近私が出した本『The Japan Times 報道デスク発 グローバル社会を生きる女性のための情報力』の中でもふれましたが、働きながら考えたことや英字新聞の読み方等について書いたのでぜひご覧ください」

大門さんの講演は、The Japan Timesの歴史と創刊の時代背景に関する話から始まった。日本の歴史に翻弄されてきた同紙の沿革を通し、日本の近代史を異なる角度から見ることになり、参加者は興味深く講演に聞き入った。

日本の報道と世界の報道の違いから見えるもの

▼日本の歴史に翻弄されたThe Japan Times

・ The Japan Timesは、明治時代の1897年3月22日に創刊。当時欧米諸国からは「不思議の国ニッポン」という眼で見られていたが、 その時代に日本の姿を紹介するために生まれた英字新聞。日本人が海外に目を向けたとともに日本に外国人が押し寄せてきた時代背景の中、三井、三菱、日本銀行、日本郵船などが出資し、明治の元勲伊藤博文の元秘書官の頭本元貞と福沢諭吉の親戚にあたる山田季治が創刊した。大門さんは、創刊号社説(別掲)と合わせ同紙の「存在意義 Raison d’Etre」*も紹介された。「言葉の壁」をなくし、相互理解を深め、対話を促進するという存在意義につながる。

……………………………………………………………………………………………………
*「The `Raison d’Etre’ of The Japan Times
Through our words, ideas and innovations, we engage Japan and the world in dialogue.
我々は「自らの言葉」「多様な考え」「革新的な取組み」を通じて、日本と世界との対話を促進していく」

創刊号の社説:
It is a remarkable and deplorable fact that after 40 years of mutual association, His Majesty’s subjects and the foreign residents remain to this day virtually strangers to each other.
(わが帝国臣民と居留外国人が、互いに交際して以来40年を経たにもかかわらず、依然としてまったくあい見知らぬ者のような状態にあることは慨嘆に耐えない。)
・・・even at this day the two sections of the community are in every important point almost totally unknown to each other. The bulk of the Japanese have as much difficulty to understand foreigners as the latter find it difficult to understand the former.
(今日においてすら、両者は肝要の件においてほとんど相知る処無く、日本人の多数は外国人を理解し得ず、又外国人も日本人を解し難しとす)
……………………………………………………………………………………………………

▼「敵性語新聞」から「マッカーサーの読む新聞」へ

・太平洋戦争時代は「敵性語」の新聞ということになり、軍部の方針に翻弄されたが、日本の状況を海外にも知らせるというPR的な役割にもなっていたそうだ。

太平洋戦争の始まった当時1941年の日米開戦とともに軍部の検閲を受けるようになり、 編集スタッフは日本人と少数の中立国、友好国の外国人だけに絞られた。

1943 年、軍部が題号変更を要請し社名をNippon Timesに変更したが、戦時中も毎日約3000部の「敵性語新聞」発行していた。そのような時代の流れの下、英米法の権威の高柳賢三氏による講和を望むコラムを設け、戦争終結への努力も行っていたという。

・1945年終戦直後、The Japan Timesは皮肉なことに米軍 GHQ支配下で「マッカーサーの読む新聞」として、飛ぶように売れることになった。マッカーサー信仰が強すぎ、1945年10月11日付け時事新報社説「権力者崇拝」民主主義の擁護を警告したそうだ。

・ 1956年 The Japan Timesに社名を復帰させた。

「117年たった今、世界に伝えるというミッションの必要性を感じるとともに我々のミッションも少しずつ変化したように思う」と大門さんは語られた。

▼外国人の視点を意識し記事にする

現在の編集部は日本人と外国人の比率が半々であるが、「昨日成田に到着した外国人にもわかるように」書くというのが大原則である。日本人として当然常識と思っていることに背景の説明が必要なことや「暗黙の了解」で片づけられてしまっている事柄も、きちんと事実確認をして説明する責任があるという。例えば靖国神社が何であるのか、海外の人には背景の説明が必要であるし、成田空港の土地問題では、土地価格の数字がないことに、外国人の編集者からチェックが入り、「自分が(日本的)常識人になってしまったことを痛感し反省した」と語られた。また同紙では、問題提起も含めて記事を掲載する場合もあるという。例としてハーグ条約について外務省が発行している説明パンフレットの一部の表現が不適切ではないかという問い合わせを取り上げたことを挙げられた。だれにでもわかりやすいThe Japan Timesは、意外に海外出張から帰国したばかりの日本人にも、背景説明が丁寧なので好評のようだ。同紙の「FYI(For your information)」というコーナーは、大門さんが企画され、人気のあるロングセラーのコラムだそうだ。

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講演の様子

「海外の人の価値観、どのような視点でみるのかを考えるのは大切である」と強調された。

▼絶対的に不足していた東日本大震災時の情報発信―感謝された安否記事

次に東日本大震災当時の様子を大門さんは振り返られた。当時報道部長だった大門さんは阪神大震災のときの経験を元に、地道に確認した安否情報や避難所などのリストを作成し、毎日更新して掲載した結果、多くの人から感謝された。「海外のメディア(CNN、BBCなど)からかつてないほど問い合わせが殺到し、取材の合間に記者はツイッターでニュース発信も行った。とにかく英語の情報が不足していたので、大使館、避難所、安否情報などの生活情報のリストを作成し国内ニュースのページを増やし、対応した」という。情報不足のため3月15日当時の初期の報道をみると海外メディアの報道の仕方もセンセーショナルで混乱を招いた。
 
後に、首相官邸や外語大学の翻訳者等が動きだすが、震災当初はほとんど英語での情報がなかった。その中でフリーランスの在日外国人記者の活躍に大門さんは着目された。当時、海外メディアの中にあまりにもヒステリックな報道があり、在日外国人記者が「Wall of Shame (恥の壁)」というサイトを立ちあげた。 これは「Hall of Fame (栄誉の殿堂))をもじったものだが、実際の状況と海外メディアの過激な内容の報道を比較して、バランスのとれた内容の記事を書いてくれた。彼らは 原発、放射能汚染の状況を積極的に取材したという。「この経験で常にどういう情報が必要とされているかを考えるようになった」と当時を大門さんは振り返った。

▼一年間毎日掲載した放射能レベルグラフ

政府が情報開示をしないうえ、東電も長時間にわたる会見を開くが、ほしい情報は少なく、記者を数時間はりつけるわけにもいかなかった。そこで日本だけでなくアメリカの専門家にも問い合わせ情報収集もした。原子力報道の際、記者たちは勉強しながら記事をかいたが、改めて原子力報道のむずかしさを感じた。放射能レベルのグラフを毎日掲載して1年間続けていたが、ある日やめたところ、クレームの電話が殺到した。意外なところで、このようなグラフや情報が頼りにされていたということを認識したという。

▼海外のスピードについていけない日本のメディア戦略

日本語と英語の報道は様々な意味で異なるが、海外では死刑や捕鯨のニュースに敏感である。日本では小さな記事なので、海外でそのように大きく取り扱われていると多くの日本人は思っていない。

また、反捕鯨団体の例をあげると、日本は、反捕鯨団体のメディア掲載のスピードについていっていないのが現状である。彼らは写真をすぐにネットに掲載し、声明をだす等メディア戦略にたけているが、日本政府は、国際的に発信する際、翻訳作業などに時間がかかりすぎてなかなか太刀打ちができないというのが現実らしい。このようにメディア戦略では海外のスピードについていけない部分もある。

外国人が好む写真も日本人と異なり、一面会議ではしばしば議論になる。例えば、8月15日の靖国の写真では、外国人の間では旧日本軍の軍服を着た人々が参拝する写真が人気だが、軍服姿の人が靖国神社に参拝するのが日常と思われても困る。掲載する写真を決める際に外国人の価値観は無視できないが、気をつけなければ間違った日本のイメージを作りかねないという。
 
▼求められるネット時代のジャーナリズムのクオリティー

ジャーナリズムはだれのためのものか?海外も意識すると解説的な要素が必要となるし、複眼的に検討する必要がある。例として、東電OL殺人事件の被害者についての報道や昨年末に報じられた40人学級に関する財務省、文科省のコメントについてあげられた。40人学級の記事については、本来であれば当事者は子どもであり、彼らの教育がどうなるか、先生はどのように感じているかなど、現場の声が記事に反映されているべきだったが、日本のメディアは財務省と文科省がもめているというようなニュアンスで、当事者不在の記事が多かった。

また、東電OL殺人事件については、実名報道に海外メディアはこだわるが、日本の報道は実名を出さないので、結局ジャパンタイムズでは「プライバシーを守るという理由から、実名をださない」と注記するようにしたそうだ。一方、イギリスでは公の場にはプライバシーはないという考えがあるので、大きな違いがある。最近では海外でも日本国内のニュースが取り扱われることも多く、ネットの時代に記事のクオリティーをどのようにするのかまで考える必要があり、今後は メディアにとって厳しい時代になるだろう。マーケットが広がった分、競争にさらされ、海外のメディアと比較されるので、油断できない。

▼ジャーナリストとしての原点を自覚したハーバード大学での研修

大門さんは、 ハーバード大学のニーマンフェロー(Nieman Fellowship)への留学体験も披露された。そこで出会った世界各国のジャーナリストたちは、生命の危険にさらされながら報道をしていて、自分にとっては、ジャーナリストの原点を考えさせられ、大きな財産になったという。例えば、軍と行動しないと戦場報道できない場合、軍の表現に近い形になるというジレンマがある。国益を優先すべきか、真実は何か、善悪はっきりすることはできないこともあるが、その回答されていない疑問を問い続けて報道することも必要であると語られた。
(詳細は著書『ハーバードで語られる世界戦略』(光文社新書)をぜひご覧ください)

▼インターネットの世界との共存-日本だけに発信しているのではない

今のネット社会では、日本国内のニュースは世界でも見られている。例えば、日本の地方議員が泣いている写真は世界をかけめぐっていたという例をだされながら、リアルのものをだしてよいのか、どのような写真をだすのかはセンシティブな問題であり、また日本語であっても必ずしも日本人に読まれているとはかぎらない。

最後に参加されたダボス会議の話題も紹介され、「日本は田舎。ヨーロッパでは金融緩和、ウクライナ等の問題を欧米の経済人が討論しているが、その中にどれだけ日本人が入れるか、国内でも国際ニュース・情報にふれていないことを痛感された」という。「『海外と日本との視点をもちつつ、情報を受け取る側も世界からの情報収集をしなければ、世界の常識からはずれてしまう』 ということでジャパンタイムズをよみましょう』 というのが落ちでございます」と締めくくられた。

質問コーナー:大門さんは、楽しかった市ヶ谷キャンパスでの学生時代の思い出から翻訳の仕方でニュアンスが異なる問題等の意見交換にもなった。ヨルダンの日本人ジャーナリストの人質問題も話題になり、Japan Timesが後藤さんのお母さんの写真を出し、提携しているNew York Timesは、人質になったパイロットの母親の写真を掲載され、偶然それぞれのお母さんの写真が掲載されることになったという掲載紙を紹介された。 同じ事件でもポイントになる視点が異なるよい事例であった。

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ニューヨークタイムズでの人質報道を紹介する大門氏

▼感想

淡々と自然体で語られる大門さんだが、世界をめぐる報道世界の責任ある立場で多くの修羅場を乗り越えられてきた経験に基づくのだろうと想像した。

私たちが日々目にしているニュースやメディアの情報をどのようにみるのか興味深い内容の講演だった。新聞学科のみならず現役学生にぜひ聞かせてあげたいと思った。いやでも私たちが目にするさまざまなニュースの背景についてネット時代は特に自分達で様々な立場の報道を聞いて考えないといけないのだろう。

AERA編集長の浜田敬子さんと並び、日本のメディアを牽引するソフィアンの女子力大門小百合さんの今後のご活躍に注目したい。(1977年外独卒山田洋子)

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懇親会にて

大門小百合さんの著書:
ハーバードで語られる世界戦略 (光文社新書)ハーバードで語られる世界戦略 (光文社新書)
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※ソフィアン佐々木かをりさんも推薦されています
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  • Date : 2015-06-20 (Sat)
  • Category : 三水会
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