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統治システムと首相公選論 今成勝彦氏('70年文新)

統治システムと首相公選論 ―橋下改革と船中八策に注文―

桜美林大学講師、学習院女子大学講師
元・共同通信社ワシントン特派員政治記者
今成勝彦('70年文新)

今成勝彦氏
写真:今成勝彦氏


 橋下大阪市長らが打ち出した船中八策を見て、やっと日本の政治改革も小手先ではなく、根っこから変えないと立ち行かなくなるとの危機感が出てきた、と感じた。彼らが主張する改革案の中に「首相公選論」が織り込まれたからだ。約15年も前にアメリカ議会制度から学ぶ、として首相公選の是非を著作で世に問うた私としては、ここに目を向け改革が進めば、と願う気持ちはある。
しかし、その一方で、本気で首相公選論を突き進むと、明治以来の天皇制を軸とした統治システムを壊わさざるを得なくなる。そんな高いハードルを越えていく覚悟が本当に橋下氏らにはあるのか、疑問がわいてくる。これまでといささか毛色が違っただけの橋下氏らの維新に気を奪われ、この国がいま問われている本質的な課題の大きさから目をそらしてはならないはずだからだ。

▽大統領的首相とは違う

今成写真4
写真:ワシントン特派員時代に親しかった友人の弁護士と(1987年ころ)

約25年前、さっそうと登場した中曽根元首相も、持論に「首相公選論」を掲げた。しかし、同じ首相公選論を政治改革の柱に立てながら、橋下氏のそれとは大きく異なる。戦後政治の総決算をスローガンに戦後政治の惰性を排そうと試みた中曽根氏が欲しかったのは、何よりもアメリカの大統領のような強力な行政権限であった。その法源を国会の多数を率いる政党党首として内閣を組織する議院内閣制ではなく、国民から直接選ばれた強みをもった大統領的な首相に変えたかったのである。
国会の顔色をうかがいながらではなく、思う存分指導力を発揮するには、その裏付けとして国民から直接選ばれた、とのお墨付きが必要だったわけだ。

▽統治システムに目を付けた慧眼

これに対して、橋下氏らの発想は、統治システムそのものを変えたいとするところに違いがある。法律家らしい発想だ。つまり、日本のさまざまな行き詰まりが、現行憲法の枠組みに盛られた統治システムそのものにある、と気づいた。その手直しだけでは、もう立ち行かないところにまで来ているとの危機感である。
おなじ議会制民主義の大枠に乗りながらも、日本の統治システムが決定的欠陥となっているとの認識だ。官僚によるお膳立てがなければ一日も立ち行かないところに立法府の脆弱性があり、その上に立って議院内閣制が形作られているためだ。
実際、立法府でありながら、議会が自らのイニシャチブで法律を作るのはわずかである。9割近くの法案が官僚の手による内閣法(閣法)だからだ。
国会はそれを審議してお墨付きを出す単なる承認機関に成り下がっているといっても過言ではない。

▽日米議会制度比較から気付いた立法府復権、ヒト・モノ・カネを

今成写真3
写真:H.ベーカー元駐日大使(右)夫人(中央左)と。ベーカー氏は、ワシントン特派員時代は上院院内総務で、米上院の重鎮だった。夫人もカッセンバーム上院議員として活躍、その後、白亜の恋を経て結婚した。(2005年、米大使館パーティで)

私は、30代の終わりから40代の初めをワシントン特派員としてアメリカ政治を追った。その前10年間、国内政治を取材した私は、どうせどの国の議会も単なる承認マシンとタカをくくって、米議会の取材を始めた。ところが、そこでは実に強力な権限をもつ立法府の姿を見せつけられ、アメリカ政治のダイナミズムがそこから生まれている現実に触れ、衝撃を受けたのである。
米議会は、法律の提案権を独占する。議員以外に法案提出権限を認めない。加えて法律を実行する上での裏付けとなる予算の編成から承認までを担当する。さらには、行政府、司法の主要人事への承認権を持つ。行政府によるいわゆる政治任命(ポリティカルアポンティー)人事まで議会の同意権が及ぶ。このように、ヒト・モノ・カネのすべてに立法府が権力を発揮することで行政府や立法府をけん制できる仕組みが機能していると言える。
統治システムだけを見れば、「戦争権限法」などに見られるように、行政権のトップに立つ米大統領の権限は、議会によって抑制され、勝手に独り歩きできない仕組みが作られている。

▽なぜ米国は議院内閣制を押し付けたか。

第2次大戦の敗北を受けて、新憲法が定められた。今日の統治システムが定めまったのである。しかし、民主主義の旗手をもって任じるアメリカが日本の新しい姿としてなぜ、大統領制を求めなかったのだろう。GHQの憲法草案は初めから議院内閣制を前提としている。本来なら。戦争責任を取らせなければならない天皇ヒロヒトの退位と天皇制による統治システムの廃止が求められてしかるべきだったはずだ。
戦後、67年経って未だに解き明かされていない歴史の闇がいくつかある。この点もその一つだ。確かに、天皇の権威を使って戦後の日本統治をスムーズに進めたかった連合国側の思惑が先行した、との説明には一定の理解ができよう。しかし、その結果、明治の太政官制以来脈々と続いてきた官僚制が温存され、この国の将来にこれほど重くのしかかってくるとは、さすがの米国にも考えられなかったのかもしれない。

▽「国体護持」と「官僚制維持」は同意語?

終戦前夜の歴史を振り返るたびに日本軍の降伏条件に「国体護持」が登場する。一見、天皇制を維持したい忠臣的思想に見える、しかし、その裏側にあるのは、天皇制と表裏一体の関係にある官僚制の温存があったと言える。天皇の忠実な臣下として政治を支えてきた官僚システムをどう温存するかが当時の為政者たちの主要関心事であり、そのための画策であったと私には見える。つまり「国体護持」が「官僚制維持」と同意語であった言えるのではないか。

▽戦後も生き延びたしたたかな官僚システム

今成写真1
写真:学習院女子大講師としてアメリカ議会制度の資料集めに米議会を訪れたときに(2004年)

 政治記者当時、ある若手官僚と議論していたとき、この人物の口をついて出た次の言葉が気になったのを鮮明に覚えている。
「万一、日本が共産党による一党独裁に代わっても、我々(官僚機構)の支えがなければ1日たりとも統治はできない」
強烈なエリート官僚の自信の表れと受け取ったが、今になってみると、それ以上に官僚システムへの本質を語っていたと言える。真の支配者は体制に関係なく「官僚」なのだと宣言しているのと同じだから。民主党への政権交代、野田政権による増税路線への流れをみると、「脱官僚」を掲げる民主党の青臭い政治スローガンを気にもかけず、着々と増税への道筋を進ませるしたたかな官僚機構の姿が見える。
彼らは、財政ひっ迫から日本を救う、としながら、その裏でちゃっかりと官僚システムがなければ、民主党の政治は子供の遊びにすぎない、と突き放す本音が聞こえてくる。

▽立法府の機能の本質

だからと言って、議院内閣制が時代遅れだとは思わない。公正な選挙によって選ばれた国会議員の多数派が、行政府を指導するこの制度自体は、決して国民主権に逆行するものではない。現にイギリス議会は議院内閣制によってその権限を発揮し、国の運営に当たっているからだ。
 問題は、立法府がその権限をいかんなく発揮できるために現行憲法にはない権限をどう取り戻すかにある。首相公選制にしただけは意味がない。
立法府がその権限を発揮できる仕組みがなければ、行政府の独走を許し、立法府が形骸化するだけである。

▽首相選出方法だけに目を奪われるな

首相の公選制とあわせて、厳密な立法権の実行、すなわち法律は議員提案のみとすること。事実上財務省に握られている予算編成権を内閣から、国会に移す。主要官庁の局長以上の人事は、国会が握って離さない。このような官僚機構へのグリップがあれば、立法府は本来の機能を発揮できる。官僚機構をコントロールできるだけの政策力をつけていくには、まず、その裏付けである権能を整えるところから始めるべきではないか。
 橋下氏らの船中八策には、こうした立法府の復権という視点が十分ではない。統治システムから日本を変えていくには、憲法改正も辞さないと口にする。ここまではいいのだが、本当に統治システムを根本から変えていく覚悟が橋下氏らにはあるのだろうか。

▽突き詰めると天皇制廃止に至る

首相公選制にするとは、衆議院に優先議決権がある首相指名選挙を廃止し、その代わりに、首相選出のための国民投票を行えばよいというだけではない。事実上、議院内閣制から共和制への移行になるのだから、当然、憲法上も天皇の位置が変わってくる。天皇に残されている様々な国事行為の廃止はもちろん、「国民統合の象徴」とされる天皇制の廃止まで覚悟しないといけなくなる。
口では、新鮮な発想で旧来の政治を批判する橋下氏らだが、本来、血の革命を経なければ手にできない改革を本気で進める覚悟がどれだけあるのか。そこを国民に明確に示しながら「維新」を進めない限り、結局は「口先改革」の域を出ないだろう。

▽「聞こえのいい話は疑え」

見栄のいい蝋細工の料理サンプルを陳列ケースに並べる。ところが、それをみた客がその料理を注文すると、「時間がかかる」「言い材料がそろわない」などと言い訳ばかり。挙句の果てには、これまでより高い値段で、何の変哲もない平凡な料理を押し付ける。そんなインチキ商売と同じで、おいしい話ばかりマニフェストに盛り、国民の期待を集めたが、いざ注文すると、言い訳と同時に「値上げ(増税)」を求めてくるのが今の民主党のやり方なのだ。

「聞こえのいい話は疑え」とは、昔から政治に対する民衆の知恵である。橋下改革がそう言われ、国民から愛想づかしを食らわないよう、「船中八策」への覚悟とその裏付けを示すべきだろう。(了)


今成勝彦氏プロフィール

今成勝彦(イマナリカツヒコ) 桜美林大学講師、学習院女子大学講師、元・共同通信社ワシントン特派員政治記者、新聞協会紙面審査懇談会前委員、著書「国際情報論」「米国議会制度」など多数。
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今成 勝彦

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