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三水会2月講演会「映画業界の現状と邦画の未来と可能性」杉原晃史氏

■講演テーマ:映画業界の現状と邦画の未来と可能性 ~日活100年を通して映画を語る
■講師: 日活株式会社 取締役国際事業部門長  杉原晃史(すぎはらあきふみ)さん('84年外・英) 
    
■日時:2012年2月16日(木)18時30分~21時
■場所:ソフィアンズクラブにて
■参加者数:31名 

「ひんぱんに映画を見に行くと思う方は、挙手をお願いします」という問いかけから杉原さんの講演は始まった。次々に、映画市場の現状についてデータを交えながら、邦画と洋画の位置付けの変遷や配給システム等の専門的な話題について、わかりやすい表現で講演は展開していった。杉原さんの絶妙な語り口に会場全員が、映画のストーリーに引き込まれるように聞き入った。100年という歴史のある会社「日活」の取締役として、映画業界の今後をどう見ているか。世界の映画市場を舞台に大活躍するソフィアンズの見識をお伝えする。

◆ 震災で映画館の観客数が激減

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(杉原晃史氏)

□2011年の観客動員人数は約1億4472万人で、前年度の17%の減少となった。この減少の大きな理由は、東日本大震災によるもの。一番顕著な例は、杉原さん自身が製作した園子温監督の「冷たい熱帯魚」である。
□この作品は、日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール作品賞、横浜映画祭監督賞などに輝き、2011年2月、3月と快進撃の観客動員数を記録したが、震災前日の3月10日と3月11日の観客動員数を比較すると88%減と極端に落ち込み、その後の動員数は回復しなかった。
□会場の答えもほぼ同じだったが、日本の1人当たりの年間映画入場回数の平均は、2010年は1.3回、2011年は1.1回という低いもので、米国では約10~11回である。杉原氏の表現によると「日本人は一度映画館に行って、出てきてちょっと戻るという感じ」のようだ。
□興行収入でも、2011年は1811億円で、前年対比82%に留まり、無論大震災の多大なる影響はあったものの2000億円を大きく割り込んだ。ただ、年間の公開本数は799本で、毎週新作の映画が、15本も放映されていることになる。1人年に1回ぐらいしか、映画館に足を運んでいないという現実から明らかなように業績は「良好」とは言えない。


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(日本映画市場概況(興行) 出処:日本映画製作者連盟)※クリックで拡大

◆ 興行収入では邦画が洋画を制す 

□2011年の邦画・洋画の興行収入は、それぞれ1000億円を超えられず、995.3億円で、洋画は816.6億円だった。最近は邦画のほうが興行収入では洋画を上回っている。邦画バブルという現象と、シニア世代は邦画のほうがなじみやすく、熟年世代が増加したことが影響したと思われる。
□具体的には、邦画興収ランキングの第1位は、スタジオジブリの宮崎吾朗監督の「コクリコ坂から」。1963年の横浜を舞台にした高校生の青春物語をアニメ化したもので、44.6億円。第2位が「劇場版ポケットモンスターベストウィッシュ」で43.3億円。第3位が、三谷幸喜監督の「ステキな金縛り」で42.8億円。邦画は東宝が東宝東和を含めると、例年60~80%の興行収入を占める。因みに日活が現場制作を担当した佐藤信介監督の「Gantz」は第5位と、森田芳光監督、磯田道史原作の「武士の家計簿」は第21位に入っている。制作と製作委員会幹事を日活が担当した『八日目の蝉』は26位であった。


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(平成23年度興収ランキング(邦画) 出処:日本映画製作者連盟)※クリックで拡大

□洋画興収ランキングの第1位は3Dの製作による「ハリー・ポッターと死の秘宝 Part2」で96.7憶円,第2位は「パイレーツ・オブ・カリビアン 生命の泉」で、88.7憶円、第3位は「ハリー・ポッターと死の秘宝 Part1」で68.6憶円。
洋画は興行収入にばらつきが多いのが特徴。ヒットして、興収が高いのもあれば、かなり低いのもある。


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(平成23年度興収ランキング(洋画)出処:日本映画製作者連盟)※クリックで拡大

◆ 「千と千尋の神隠し」が過去最大のヒット

□国内市場を歴史的に観ると、邦画の最大のヒットは、2001年公開の宮崎駿監督のアニメ「千と千尋の神隠し」で、興収304億円。
□洋画は1997年ジェームズ・キャメロン監督の「タイタニック」の262億円、2009年の同監督の「アバター」は156億円。
□映画館スクリーンの数はシネコンと呼ばれる複合映画館を含めて、2010年は3412館だったが、2011年は3339館とやはり減少している。
□映画館の数は1960年がピークで7500館近くもあり、全国都道府県の町に一軒は映画館があった。杉原さんの出身地である山梨県のぶどう畑が続くのどかな村にも2軒映画館があり、冗談だが「牛も映画館に行く盛況の時代だった」という。しかし、1963年からのオリンピック需要に煽られたテレビの普及で、映画館は顕著に減り始め、1973年の1,730館台まで落ち込んだ。1990年代前半から拡大したショッピング・センターの建設に伴い、そのテナントとしてシネコンが普及し、その数は3,400軒まで回復した。ただ、経営上採算が取れず、それに、現在は建物の老朽化が進み、今後は減少傾向が続くと思われる。
□ビデオソフト(ビデオレンタル、ビデオセル、DVDレンタル、DVDセル)市場
はどんな状況なのか。
□その売り上げは2002年の7354億円をピークに2008年から減少し始め、2010年には26%減の5443億円まで落ち込んだ。最近はレンタル料が1本100円というところもあり、採算割れに拍車をかけている。


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(日本の映画市場概況(ビデオソフト) 出処:日本映像ソフト協会)※クリックで拡大

◆ 手間と時間がかかる邦画製作

・邦画の製作本数は顕著に減少する傾向にある。 
2012年の公開本数は前年に比べ著しく減少しない(既に製作済みでブッキング済みの作品が多いから)が、2013年以降は減少がより顕著になると予測している。
・洋画の公開本数は一時的に増加しており、邦洋再逆転する可能性が大きい。
理由は邦画の製作は洋画に比べ手間がかかり、洋画買い付けの即効性にかなわない。
・公開規模は小規模作品が増加し、劇場は作品確保に懸命になる。

◆ 衛星系専門チャンネルが主流になる時代

・採算の悪化、及び設備の老朽化によってスクリーン数は当面減少に向かう。 
・パッケージソフト(ビデオグラム)はセル市場(販売市場)が更に大きく縮小し、2012年からはレンタル市場もその減少が顕著になるものと予想。
・映画のテレビ放映は地上波では「よい時間帯では視聴率が上がらない」、「地上波以外のいろいろなメディアで安価に観れる」などの理由で、更に困難になり、WOWOWのような衛星系専門チャンネルが一層主流を占めてくる。
・配信市場は地上波での新サービスもスタートし、そろそろ本格的成長が望まれる唯一の期待市場。米国では版権総収入の7-8%を占めるまでになってきているが、日本ではまだ2%レベル。

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(講演中の会場)

◆ 進む映像コンテンツの無料化

・国内映像コンテンツ市場はオール・メディアで厳しい局面が進行している。
・今後の頼みの綱は配信市場の拡大のみだろうか?
・不況の長期化に加えて若年層の消費の減少とエンタテインメントの多様化それに音楽・映像コンテンツの無料化が進行している。現在の映画の需要の大きな部分を60歳以上の高齢者が占める傾向が進行。
・国内市場が継続的に厳しい状況にあるなら、
⇒ 新たな消費を喚起できるスマホ向けなどのコンテンツの開発
⇒ 新たな回収市場の開拓の対応が早急に必要である。

◆ ハリウッドに60億円投資し、回収したのは96円

□「新たな消費を喚起できる映画コンテンツの開発と新たな回収市場の開拓をするには、 世界市場で収益の上がる映画の製作とディストリビューション構造が必要だ!」と杉原氏は強調した。しかし現実はハリウッドとの共同製作では、これまでは日本側が大枚出資をさせられ、勝手なものをつくられ、出資に多大な欠損が生じている。結果的には敗北あるいは、ハリウッドでリメイク出来る作品のリメイク権を安値で譲渡し、それで終わりだったという。
ある有名な会社はハリウッドとの共同製作に60億円を投資した。しかし戻って来た額はわずか1.2ドル(96円)だったという。そこで、製作出資による損失を回避し、世界市場で大ヒットした場合、それ相応の収益を確保できる方策はないものなのだろうか。

◆映画のリメイクに大きな可能性

□それに対して杉原氏は次のような具体的な提案をした。
(1)リメイクに大きなポテンシャリティを持つIP(知的財産Intellectual Property)の発掘と確保
⇒日活の場合、自社製作のヒットライブラリーだけでも3,000作を越えているので発掘の土壌がある。

(2)いきなりハリウッドメジャーと直接契約せず、ハリウッドメジャーを配給できるような有力プロデューサーと合弁で製作会社(LLC Limited Liability Companyなど)を設立して、そこが全ての事業を仕切るストラクチャーをつくる
⇒杉原氏の場合、1700本を超える買い付けを通じて多数のプロデューサーとの人間関係がある。
(3)作品のファイナンシング及びキャスティング等は、パートナーの有力プロデューサーに主に担当してもらい、日活は100年間で培った映画制作技術、ノウハウを活かして実制作を請け負うことで収益を得る。世界市場への版権セールスでは、長年の買い付けで付き合った多数のセールス会社とパートナーの有力プロデューサーのノウハウを活用する。
(4)ハリウッドの映画製作は、日本のいわゆる「製作委員会」方式と異なり、
製作出資者はあくまで出資による回収のみ。完成した映画の版権行使はすべて製作会社(LLC)が担当、成功報酬も極めて大きい。

◆ 世界市場を狙う日本の映画会社の課題は何か

□こうしたことを具体化し、実現していくためには次の4項目が必要だという。
1) 出資は積極的に行わず、世界で通用する強力なIP(知的財産Intellectual Property)の確保を最優先する。
2) そのIPを最も高く評価する有力プロデューサーと共同製作会社(LLC)を設立し、プロジェクト終了後、解散する方式を取ること
3) その作品の実制作の一部(あるいは全体)を受託して基本収益を確保すること
4) 世界市場で上がる収益から適切な配分を得られる構造を構築すること

◆ 無国籍ではなくボーダレスな映画を(感想)

□なめらかなそして流れるような口調でユーモアを交えての1時間の講演は満員の会場を魅了した。杉原さんは、大学2年の時、「新聞科の先輩に『朝日ジャーナル』も読まず、『映画』も嫌いな奴は生きている価値がない」と諭され、映画館に通い出し、初めて感動して観た映画が「影武者」と「ロミオとジュリエット」「ローマの休日」だった。それぞれを1日3回も観るほど映画にはまったと言う。
□その後、卒業後の進路は学究者と決めていたが、母親が怪我を負ったこともあり、早く完全自立しなくてはと思い立ち、いきなり面接に行ったカシオ計算機に、貿易の即戦力を必要としていると言われ就職を決めてしまった。カシオに就職し、希望通りに2年目で中近東へ長い出張へ出たりして充実したスタートは切ったものの、3年目にふとしたことでギャガ・コミュニケーションズの草創期と触れ合い、映画業界への転職を決意。
□これまで買い付けた洋画の中には、1994年のコメディでCG映画の草分け的存在で大ヒットしたジム・キャリー主演の「マスク」、1996年のスリラーでブラッド・ピット主演の「セブン」、1999年スチーブン・キング原作でトム・ハンクス主演の「グリーン・マイル」があり、インド人やハリウッドのユダヤ人と張り合っての仕事をやってきた。精神的にものすごくタフで、英語の語彙が豊富、しかも交渉力はずば抜けている。だからこそ、魑魅魍魎の世界の映画市場で活躍できるのだろう。

□学生時代の恩師は、W.エヴァレット神父、吉田研作先生、松尾弌之先生、國弘正雄先生。
□これからは「無国籍な」映画ではなく、「ボ―ダレス(Borderless)」な映画が必要と強調していた。この言葉こそ、これからの日本を、そして世界を背負う若い人たちに「講演の至言」として肝に銘じてほしいと実感した。ソフィアンズにも、こうした人材がいることは私たちの誇りに思う。
(報告:松村裕幸 '70年外ポ、山田洋子 '77年外独)

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(懇親会での杉原氏(中央)と三水会幹事・黒水氏(左)、筆者松村(右))


プロフィール
杉原晃史(すぎはらあきふみ)さん('84年外英)
1984年カシオ計算機株式会社に入社し貿易業務を担当。
1987年に株式会社ギャガ・コミュニケーションズ入社。
1990年同社取締役。2001年ワーナー・ブラザーステレビジョン日本代表、
2005年よりアミューズメントメディア総合学院副理事長兼AMGエンタテインメント社長を歴任。
これまで買い付けた洋画の作品数は1,700本余り。
2009年より日活株式会社 取締役(版権営業部門長)
2012年3月より同社取締役(国際事業部門長)として活躍。
映画製作を積極的に展開し、製作統括として製作した「冷たい熱帯魚」は日本アカデミー賞、ブルーリボン賞、毎日映画コンクール、横浜映画祭などで受賞のほか、2011年キネマ旬報ベスト・テンで監督賞、助演男優賞の2冠に輝く。 
映画以外では落語DVDを多数プロデュース。
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  • Date : 2012-03-18 (Sun)
  • Category : 三水会
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