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三水会12月講演会「電子書籍の進展と書店の取り組み」森啓次郎氏

■講演テーマ:「電子書籍の進展と書店の取り組み」
■講師:森 啓次郎 (もりけいじろう)さん ('77年法学部法律学科卒) 
    株式会社紀伊國屋書店 常務取締役・海外本部長・店売総本部副本部長
■日時:2011年12月21日(水)18時30分~21時
■場所:ソフィアンズクラブにて
■参加者数:30名


 わが国は、2010年電子書籍元年を迎えた。書籍の電子化が進み、出版社、書店を含めこれまでのスキームが大きく変わろうとしている。 紙での読書は廃れていくのか、電子書籍が主流になるのか?そうした中、紀伊國屋書店は、果断に「電子書籍関連の情報発信基地」として情報や体験の場の提供を行っている。

 三水会12月の講演会では、黒船襲来と言われるアマゾンの話題も含めて、書店としての電子書籍への取り組みを紀伊國屋書店常務、森啓次郎さん('77年法学部法律学科卒)にお話いただいた。

森氏三水会プレゼンRIMG17922
森啓次郎氏

▲自己紹介

 森さんは1977年に法学部卒業、紀伊國屋書店に就職した。当時は労働争議のあるなかで定期採用としては初めて入社した社員だった。上智大学就職相談室の人に、「そのような会社に入って大丈夫か」と言われたという。大学での専攻は法律であったが、英語に強い上智大学卒ということで、入社して3ヶ月で海外要員となり、サンフランシスコの支店に3年、ロサンゼルスの支店に3年と米国に6年駐在した。

 1983年から今度はアジア地区を任され、シンガポールに20年以上も赴任し、海外勤務を通算29年経験した。いわば紀伊國屋書店の海外市場のビジネス・フォームを創った立役者でもある。日本には7年前に帰国、国内外の出版業界全般の問題について熱く語ってくださった。

▲シンガポールに東南アジア最大の書店

 まず上智卒業後の紀伊國屋海外支店勤務時代をスライドで振り返った。最初の赴任地アメリカそしてシンガポールと書店開設の苦労話を話された。特にシンガポールの総支配人時代には、広さ1,200坪、陳列英文書33万冊、和書、中文書合わせ約50万冊をそろえた東南アジア最大の書店となるシンガポール本店を開店させた。

紀伊国屋書店海外展開p13
紀伊国屋書店の海外展開(クリックで拡大)

 このシンガポール本店は、「クロスカルチャー、マルチリンガル」の旗印を掲げ、ただ単に多国籍の書籍を販売するだけでなくクロスカルチャー(文化交流)の起点になるスペースを提供した。このシンガポールでの成功は、中東のドバイにも1800坪の大型支店開設をもたらした。

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ドバイの紀伊國屋書店(クリックで拡大)

▲小粒になった最近のベストセラー

 続いて、現在の出版業界について、戦後のベストセラーと最近のデータとの比較から始まった。日本の書籍と雑誌の売り上げ市場は、1996年(2兆6千億円)がピークで、2010年には約30%減少し1兆8,748億円、印刷物の市場は15%減少しているが、反面、出版される本の数字は、年間7万―8万もあり依然として日本は出版大国とも言える。また坪面積の大きい大型書店も増加傾向にあると説明。

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歴代書籍メガヒットランキング(クリックで拡大)

 最近のベストセラーは、以前の400-500万部という数字に比べると小粒になっている。例えば『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカ―の[マネージメント]を読んだら』は約100万部、震災後の心の絆を象徴し『くじけないで』が約150万部。その中で『スティーブ・ジョブスの伝説』は、刊行後2ヶ月で既に100万部の売り上げで、電子書籍も同時販売だったので話題になった。

▲目立つ転売目的の万引き増加

 続いて、出版業界の流通の仕組みに話が移り、過剰な返品、書店の低マージン等、さまざまな問題があげられたが、特に最近目立つのは、新興の古書店やネットオークションという以前なかった二次流通市場だそうだ。これがあるため、転売目的の万引きが増加しているとのこと。日本は海外と異なり、店の外に本や雑誌を積んで販売しても、万引きされることは殆どないほど民度が高かったが、今は事情が異なるようだ。昔のような古本屋なら盗本と思われる新刊本を持ってくる学生に店主が注意をすることもできたが、今の古書店では事務的に処理されるだけであることにもよるのではないか。

▲国を挙げての電子化事業の推進

 わが国では、出版物の電子化の将来につき政府に「デジタル・ネットワーク社会における出版物の利活用の推進に関する懇談会」ができ、2010年3月より活動を始めている。2009年度補正予算には、国立国会図書館(NDL)電子化事業に126億円がつくことになった。これに伴い国会図書館が所蔵する戦前から1986年までの書籍約90万冊の電子化が進行している。この書籍電子化の波は、日本よりも韓国の方が進んでいる。紀伊國屋書店もこのNDL電子化事業には参画している。
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紀伊國屋書店の図書目録のデータ作成販売事業(クリックで拡大)

 紀伊國屋書店は、単に書籍の販売だけでなく図書館のアウト・ソーシング(図書目録のデータ作成販売、運営システムの販売など)や、電子化された学術情報を提供しているそうだ。つまり図書館向け電子書籍サービス(Netlibrary)や電子ジャーナルサービスの提供である。

特にNetlibraryは、世界最大の図書館向け電子書籍サービスである。これには、和洋30万タイトルが掲載され、全世界18,500機関で利用されている。和書は、2007年11月より提供を開始した。現在3,600タイトルが掲載され、国内230機関で利用されている。これについては、新たに北米東洋図書館から、和書目録の作成も現在受注しているとのこと。個人向けには、2011年6月より電子書籍の配信・販売サービス「BookWebPlus」の提供を開始しているということだ。

▲急速に進行する電子書籍の波

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講演中の森氏

 最近の電子書籍市場は、アップルの「iPad」やアマゾンの「キンドル」のが発売がきっかけで急速に広がっているのだそうだ。特にアマゾンより電子書籍リーダー「キンドル2」が発売され、重さ290g程度の端末の中に約2,000冊が入るすぐれものである。これには通信機能も付いており、電子書籍だけでなく映画・音楽を売るオンラインストアーになっており、アメリカでは電子書籍の市場の6割をアマゾンが取ったとも言われているそうだ。

 アマゾンに対抗して、全米第1位の書店チェーン店「バーンズ・アンド・ノーブル」も独自にNookという端末を開発し、後発でありながら市場の2割を確保するという、電子書籍配信事業で誰もが驚くほどの健闘をしているとのこと。

 日本の場合、辞書コンテンツの電子化が先行して進んだが、これは出版社がセイコーやシャープに辞書の版権を売ったもので、1988年には180億、年々販売が増え2007年には650億に成長しているが、あくまでも端末の売上であり、出版コンテンツの売上にはなっていない。一面においては出版業界からこれだけの売上が家電業界に流失したとも言える。

 一方、新聞も電子化に時代に入り、日本経済新聞が2010年3月23日より電子版の配信を始めている。日本の電子書籍の規模は、2008年464億、2010年は640億であるが、ほとんどがガラ携(ガラパゴス携帯)と言われるケータイによるアニメ・マンガの配信であった。現下に進行しているタブレットPCやスマホの市場拡大により、読み物、経済書、実用書、専門書、雑誌等含め電子化が進むと、電子書籍市場は2014年に1300億、2015年には2000億になると予想される。

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電子書籍市場規模の拡大(クリックして拡大)

▲電子書籍事業に励む紀伊國屋書店

 そのような状況の中、森氏は紀伊國屋書店の事業展開で、店舗での①書籍販売、②デジタル書籍販売に、インターネットでの③書籍販売④デジタル書籍販売を加え、4つの出口展開によるハイブリットデジタル販売を目指している。それは紀伊國屋書店が、電子書籍時代に対応し人々の読書ライフのトータルサポート(店舗×ウェブ×紙×電子書籍)に応えるためでもある。

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紀伊國屋書店のトータルサポートイメージ(クリックで拡大)

 日本の電子書籍の課題には、1)日本語書籍コンテンツの不足、2)コンテンツフォーマットの統一、3)著作件処理(再許諾)、4)価格設定、5)デバイスの普及(電子書籍端末)がある。

 現在デバイスの普及が急速に進み、日本の電子書籍ストアとしては、Reader Store(ソニー )、GALAPAGOS(シャープ )、BookWebPlus(紀伊國屋店)、honto(大日本印刷、NTTドコモ他)、Raboo(楽天)、そしてBookLive(凸版印刷、インテル)のそれぞれのものがあり、それぞれ事業展開しているのだそうだ。

紀伊國屋書店電子ストアp37
日本の電子書籍ストア(クリックで拡大)

 その中で、紀伊國屋書店の開発した電子書籍のアプリ「Kinoppy」はリリース後、半年で20万人がダウンロード。また、電子書籍ストアー「BookWebPlus」も、まさに本日(12月21日)、第5回日本電子出版協会のベスト・ショップ賞を受賞することも出来たと語ってくださったところで幕を閉じた。

淡々と語られる森さんだが、現地の文化背景を取り入れ、シンガポール店を成功させ、ドバイ政府に依頼されて、大型店舗を造ったという森さんの手腕に感銘を受けた。また、本が消費財化している現状がよくわかったとともに、アマゾンに対して、書店がどのように対応していくのか、これからが非常に興味深いと思った。

(取材:向山肇夫 '63法法 山田洋子 '77外独)

森氏三水会懇親会RIMG17972
講演後の懇親会より(クリックで拡大)
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  • Date : 2012-02-05 (Sun)
  • Category : 三水会
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